チャンマールタイムス

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アメリカ大統領選挙に学ぶアメリカ流自由主義

 

ポイント

 ・アメリカ人は国民皆保険を敵視している

 ・日本人には理解しがたい「自由主義

 ・自由主義と宗教観から導き出される「自由」「責任」「博愛」


 さてジョーバイデン氏の当選が確実となったアメリカ大統領選挙アメリカの国内の選挙ではありますが、だれが大統領になるかは世界のあらゆる側面に影響を与えるため、世界中から広く関心を集めています。

 今回はこの2020年アメリカ大統領選挙から学ぶことができるアメリカ流の自由主義について。


アメリカ人は国民皆保険を敵視している

 アメリカは日本と違い、国民皆保険はありません。オバマ大統領の時代に「オバマケア」と呼ばれる公的保険のシステムが導入されましたが、これに反対して当選したトランプ大統領によって骨抜きにされてしまいました。

 長年公的皆保険システムの無かったアメリカでは、このオバマケアは理念は素晴らしいと評価できるものの、国民の多くの不満を買っていたのも事実です。日本の保険システムもそうですが、「真面目に納税している健全な」白人労働者が割を食うという側面が大きかったからです。日本では、まだ納税や保険料納入によって高齢者や困っている人を助けよう、という共助の考えがある程度根付いているため、毎月「高いなあ」とは思いつつも税金や保険料にそこまで強く不満を訴える人はいないでしょう。

 アメリカでは長年保険が無いのが当たり前であったので、急にオバマケアで不健康な困窮者にお金が流れるようになると、健康な納税者(ないしは保険料納入者)が不満を抱くのも自然な感じがしますね。アメリカはなぜこうも長年に渡って公的保険が無いのが当たり前の社会を築き上げてきたのでしょうか。


・日本人には理解しがたい「自由主義

 アメリカも日本も同じ「自由主義」陣営である、とよく言われます。これは別の言い方をすれば古いですが「西側諸国」と同義でしょう。要するに共産主義陣営(東側諸国)に相対する存在、という程度の意味です。このように同じ「自由主義」という言葉でくくられるアメリカと日本ですが、その概念のとらえ方には非常に大きな開きがあります。

 日本の自由主義は戦後に欧米(特にアメリカ)から輸入・移植されたものです。我々日本人が歴史の中で勝ち取った権利ではありませんね。ところがアメリカ人は彼らのルーツであるヨーロッパで長年血と涙を流して勝ち得た権利が「自由」です。その時点で「自由」へのこだわりの強さは全然違うのは理解できますね。特にアメリカ大陸に渡りアメリカ人の祖先となったヨーロッパ人は、ヨーロッパでの抑圧からの自由を目指してメイフラワー号に乗ったのです。ヨーロッパ系の人種の中でも「自由」に大きなウェイトを置くのも無理はないでしょう。


 自由主義の中でも特に重要な概念は「経済的自由」です。不当に自分の稼いだ金を取られないことです。かつてヨーロッパ封建社会では、領主や貴族、王族などの恣意的な税の徴収が可能であり、働いても働いても搾り取られる、というのが当たり前でした。しかしイギリスで様々な葛藤の末議会政治が発達し、政治の世界に金を稼いで力を持った「市民」が入り込むようになり、政治において「経済的自由の保障」が重要になります。ジョン・ロックが唱えた自然権の一つですね。経済的自由を訴える市民政治家の意見もある程度取り入れないと議会内で数的な力を得ることが出来ないため、守旧勢力もしくは既得権益を持つ権力者たちも、しぶしぶながら市民たちの経済的自由を認めざるを得なくなったのです。

 さらに産業革命によって市民は金と権力を得ていきます。資本家の誕生です。そこでも自由主義が尊ばれました。アダム・スミスの著した「国富論」では自由放任主義で市場のなすままに任せていれば「見えざる手」によって自然に調整が行われ、経済は健全に発展を遂げる、という理論です。つまり経済市場に政府が介入することを、厳に禁ずる「自由主義」が発達したのです。

 

 「政府がむやみに国民からお金を取り上げない」「市場に政府が介入を(極力)しない」という自由主義を徹底的に実践したアメリカはどうなりましたか?今や世界一の大国です。アメリカは「自由主義」で偉大になったのだ、というのが大方の「伝統的アメリカ人」の認識です。

 さらに少しだけ詳細につっこむと、「社会進化論」という考え方があります。これはダーウィンが唱えた「進化論」が、社会というものにも当てはまるのだ、という考え方です。ここでは政府の役割はさらに狭められ、治安維持や国防にのみ国家の役割があり、それ以外は一切何もするな、介入するな、という主義です。弱者救済など以ての外。福祉は敵、です。なぜなら、弱者は淘汰されて消えゆくべきであり、適者生存の原理に従い社会に適合できた人(経済的成功を得られた人)だけが社会に残っていけば、自然と社会全体が強く進化するからです。逆に言えば弱者救済を行えば、社会に適合できない人間を国家が抱え込むことになり、社会全体が弱体化する、ということになります。

 アメリカはこの社会進化論に従った国家運営を行い、国民の隅々にまでこの考えが浸透しています。その結果としてアメリカは世界一の金持ち国家になりましたが、貧富の差は尋常じゃなく激しく、治安も良いとは言えませんね。でもそれがアメリカのダイナミズムであり、アメリカンドリームの魅力とも言えます。こうやって見てみると、日本人からすると自由すぎてついていけない、というくらい、理解に苦しむ概念とも言えるでしょう。困っている人が困っているのは、彼が社会に適合できないからだ、といって切り捨てる。なんだか冷たい社会ですね。まあ日本もちょっと種類の違う自己責任論国家ではあるので、他者に冷たく厳しいという意味では日本の方がネガティブかもしれませんが、それについてはまた別の機会に触れましょう。


自由主義と宗教観から導き出される「自由」「責任」「博愛」

 ここまで見てきたように、徹底的な自由主義による「自由」と、その付随概念である「責任」が常に付きまとう社会、がアメリカという社会なのです。徹底した経済的自由という観念からは公的保険などは考えられようもなく、年金も保険も「個人で」「自分の責任で」やるものなのです。それが出来ない貧乏人は、つまり社会に適合できなかったのだ、と。

 とはいえキリスト教の影響の強いアメリカですので、「博愛精神」と言いますか、「隣人愛」というものも重要視はしています。伝統的アメリカ人は必ず日曜日には教会に行きます。そこではもちろん助け合いについても学びます。弱者救済などはそのような教会や、篤志の財団などが行っている、という現状もあります。ここでも国家の役割を最小限に(それ以外の必要な事は個人または民間で)、という考え方が見えてくるようです。


 アメリカでは共和党が保守的、と言われます。アメリカにおける保守思想とは、この自由主義思想に他なりません。もともとは封建社会での貴族や領主に対抗する概念であった自由主義。そういう意味ではその主義の誕生時には「リベラル」だったわけです。実際自由主義のことを「リベラリズム」と訳したりしますので。でも自由の国アメリカではそんなリベラリズムが保守、なのです。対して民主党は比較的福祉国家的な要素も政策に取り入れていこうという、アメリカで言う「リベラル」な政党です。ややこしくなってきましたね。保守派はリベラリズムで、リベラルは福祉国家ないしは社会自由主義自由民主主義、のような物を志向しているのです。


 実は「自由主義」と「民主主義」とはちょっとズレのある概念です。極端な自由主義は上に書いたような社会進化論的な、弱者切り捨ての考え方ですが、民主主義は「みんなの意見を大事にしましょう」という考え方です。民主主義も自由や権利は大事にしますが、どちらかというと「平等」も重要視する考え方です。民主党はその名の通り民主主義を標ぼうしています。つまり、弱者も救済していきましょう。社会に多様性を持たせて社会を発展させていきましょう、という考えです。

 共和党自由主義は「社会に多様性」より「適者生存」の原則で社会を発展させてきた、そして今後もそうである、という考え方です。


 21世紀に入り、「繁栄のしかた」にも変化が訪れました。冷戦が終わって以降、ヨーロッパでは福祉国家の建設が叫ばれ、社会民主主義が台頭しました。北欧やカナダのように福祉に力を入れる国が経済的にも発展を続けました。人種や性的マイノリティに対する考え方も世界規模で変わり、ボーダーレス、ダイバーシティというキーワードが今の時代を支配しているともいえるでしょう。アメリカでは民主党はそんなボーダーレス、ダイバーシティの時代に対応、適応していこう、という政策を打ち出し、実際にオバマ政権は実行に移しました。しかし(これは共和党ですが)ブッシュ政権から続く「世界の警察」としての負担がアメリカの経済に打撃を与え、オバマ政権でも前向きに評価できるような成果は上げられませんでした(リーマンショック後はリカバー景気によってGDPが伸びはしましたが)。アメリカでトランプを選んだ人たちは、「そうだ、やっぱり自由主義なんだ!自由主義こそがアメリカを再度偉大にしてくれる!」と思い、トランプも「Make America Greart Again!」と煽ったのです。

実際トランプ政権下でアメリカの経済は比較的持ち直しています。日本ではあまり報道されないように思いますが、彼結構仕事ちゃんとしてたんですよ。まあコロナで全部吹っ飛びましたが。


 日本にいると、「なぜアメリカではこんなにトランプが人気なんだ?」と思うことは多いでしょう。ドナルドトランプという人物は傲慢で、差別主義者で、いかにも成金で、感じの悪いおっさんですからね。だがアメリカ人の多くは低迷する経済、高い失業率の中で喘ぎ、トランプが実現してくれるであろう自由主義に望みを託したのです。伝統的アメリカ「白人」は自分が「敗者=弱者」の側に入るとは思ってないんですよね。でも実際足元を見てみると、あれ、俺もしかして社会的弱者になってる?なのに黒人や移民が経済的成功を収めていたりする。なにかがおかしい、と思っているんです。多様性だとか、ボーダーレスとか言うエスタブリッシュメント(近年は専ら民主党的なリベラルの方向性の中で成功していたり既得権益を持っている人たちをこう言います)に不信感を抱いているんですよね。だとしたらやっぱり自由主義なんじゃないか、と。


 多様性、だとか移民のせいで、昔から住んでる自分たちの権利が侵されている、という概念で政治が動いた例は最近ではブレグジットがありますね。イギリスも多様性にノーを突きつけたのです。


 まだ書き足りない部分もありますし、サイズや時間の関係上少々正確でない書き方をしてしまった部分もありますが、長くなったのでまとめていきます。


 今回そんな人気者のトランプが、でも負けた。これはおそらくコロナの影響は大きいと思います。今でもアメリカ人の大多数は自由主義への回帰を求めていると思います。ですが、徹底的な自由主義は政府の介入を嫌います。パンデミックの状況下では、やはり「政府が何をできるか」が重要になります。自由を重んじていたら、感染拡大は防げないです。まさに今アメリカが身をもって証明していますよね。世界最悪の感染国になっていますので。

 なので、トランプよりは「政府の役割」を民衆が求めた、その結果ではないでしょうか。

 

 今回はこの辺で。


 次回は、今回もところどころ触れた「多様性」について、なぜ多様性が社会の発展をもたらすのか、古代中国を見ながら述べていきたいと思います。


※ただの一般市民の書く記事ですので、特にソースを示していない文章について、不正確であったり、私個人の誤解に基づいていたり、そもそも間違っていたり、する場合があると思います。そういった部分を見つけた方は出来るだけ優しく教えていただけると幸いです。勉強になります。またそういった理由により、記事を丸呑みするのではなく、興味を持ったらぜひご自分でいろいろ調べてみてください。